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東京地方裁判所 昭和35年(行)116号 判決 1965年10月30日

原告 内山行道

被告 農林大臣

訴訟代理人 板井俊雄 外一名

主文

1、本件第一ないし第三次的申立てをいずれも却下する。

2、原告が別紙目録記載の各土地につき昭和三五年三月二日付でした農地法第八〇条による売払申請に対し被告が何らの処分をしないことは違法であることを確認する。

3、訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立て

一、原告の申立て

(第一次申立て)

1、被告は、原告に対し、別紙目録記載の各土地につき農地法第八〇条第一項の認定をしたうえこれを売り払え。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

(第二次的申立て)

1、被告は原告に対し別紙目録記載の各土地につき農地法第八〇条第一項の認定をしたうえこれを売り払う義務があることを確認する。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

(第三次的申立て)

1、原告が別紙目録記載の各土地につき昭和三五年三月二日付でした農地法第八〇条第一項の認定申請につき被告が何らの処分をしないことは違法であることを確認する。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

(第四次的申立て)

1 主文第二項同旨

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の申立て

(一)  本案前の申立て

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(二)  本案の申立て

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の主張

一、諸求の原因

(一)  別紙目録記載の土地(以下本件土地という。)は原告の先代内山元太郎の所有に属していたところ、昭和二三年三月二日自作農創設特別措置法第三〇条第一項の規定により同人所有の他の土地とともに国によつて買収された。

(二)  しかるに、本件土地は今なお農林大臣の管理に属している。

(三)  ところで、本件土地は別紙(一)記載のとおり農地に不適当であつて、農地法第八〇条第一項にいわゆる「自作農の創設又は土地の農業上の利用増進の目的に供しないことを相当」と認定されるべき土地であり、買収前の所有者またはその一般承継人に売り払われなければならない土地である。すなわち、

(1)  農地法施行令第一六条は、農林大臣が農地法第八〇条第一項の認定をなしうる場合を列挙し、文字通りに読めば認定をなしうる場合を限定しているように見える。しかしながら、元来農地法第八〇条は憲法第二九条の精神からみても、まれその立法の歴史的背景からみても、また土地収用法第一〇六条ないし民法の不当利得の法理に照らしても、さらにまた農地法第四四条第二項の規定からみても、農業上の利用に供する目的のために買収した土地が、買収後の経済事情の変化等のため、土地利用の綜合的見地からみて、農業上の利用に供することが相当でなくなつたときは、買収前の所有者またはその一般承継人に返還すべき趣旨であることはきわめて明瞭である。元来買収前の所有者の権利義務に重大な影響のある右認定基準を国会の議決によらず、政府が一方的に定めうる政令に委ねること自体民主主義の理念に反する。したがつて、農地法施行令第一六条各号は法第八〇条第一項の認定の一応の基準であり、制限的なものでなく例示的なものであると解すべきである。そうであるとすれば、農地法施行令第一六条各号に該当する場合、農林大臣は必ず法第八〇条第一項の認定をしなければならないけれども、買収土地が明らかに農地に適しないと認められる場合には、農地法施行令第一六条各号に該当しなくとも法第八〇条第一項の認定をすべきである。

しかるに、本件土地は農地法第八〇条第一項にいわゆる「自作農の創設又は土地の農業上の利用増進の目的に供しないことを相当とする土地」であることは明らかであるから、施行令第一六条各号にあたるかどうかを論ずるまでもなく、被告は法第八〇条第一項の認定をすべきである。

(2)  かりに、右解釈が正当でないとしても(イ)本件買収は、昭和二四年七月一日以前の自作農創設特別措置法第三〇条第一項の規定による買収であり、(ロ)昭和三六年三月三一日までに法第六二条第三項の規定による公示がなされず、また同日までにその地区にかかる建設工事が着手されなかつたものであるから、本件土地は施行令第一六条第一号の二に該当するものというべきであり、被告は農地法第八〇条第一項の認定をすべきである。

(四)  前記内山元太郎は昭和二四年一二月一〇日死亡したが、法定相続人中内山ナヲ、同信次が相続を放棄したので残る法定相続人たる原告が単独相続した。そして、原告は、被告に対し、昭和三五年三月二日付書面をもつて、本件土地につき、農地法第八〇条第一項の認定をしたうえ原告に売り払うべき旨の申請(認定申請を含む。)をし、右書面は翌三日被告に到達した。ところが、被告は今日に至るまで何ら許否の決定をしない。

(五)  よつて、原告は、被告に対し、第一次的請求として、本件土地につき、農地法第八〇条第一項の認定をしたうえ同条第二項によりその売払いをなすべきことを求める。

(六)  かりに、行政庁に対して給付を命ずる判決を求めることができないとすれば、第二次的請求として、被告は原告に対して本件土地につき農地法第八〇条第一項の認定をしたうえこれを売り払う義務のあることの確認を求める。

(七)  かりに、右の第一次的および第二次的請求が許されないとすれば、第三次的請求として、原告の前記認定申請に対し被告が何らの処分をしないことは違法であることの確認を求める。

(八)  かりに、農地法第八〇条第一項の認定が行政処分でないとすれば、売払いが行政処分であるから、第四次的謂求として、原告の前記売払申請に対し被告が何らの処分をしないことは法違であることの確認を求める。

二、被告の答弁と主張

A  本案前

(一) 請求の原因中(一)、(二)および(四)は原告が単独相続したとの点を除き認める。原告が単独相続をしたかどうかは知らない。

(二) 原告の第一ないし第四次的申立てに対し

農地法第八〇条の認定および売払いはともに行政処分ではないから、本件各申立てはいずれも不適法である。すなわち、

(1)  被告が農地法第八〇条によつて行なう認定は、国有財産の管理処分権者としての立場で行なう内部的心意作用であつて、旧所有者等の第三者を相手方として行なわれるものではないから、認定によつて旧所有者らが被告に対して売払請求権を取得し、被告がこれに対して売払義務を負担することはありえない。

なお、農地法第八〇条第二項によつて被告が売払いをする場合に被告が同法施行第一七条によつてする認定をした旨の通知は、単なる売払いの申込みの誘引にほかならない。

(2)  また、農地法第八〇条に基づく売払いは、私法上の行為であつて行政処分ではない。農地法第七八条により被告が管理する土地は国有財産法にいわゆる公共用財産ではなく、(公共用財産といい得るためには「国において直接公共の用に供し、又は供するものと決定したもの」でなければならない)普通財産たる国有財産である。したがつて、これを管理する被告は国有財産法にいわゆる各省各庁の長としてするのであつて、他の国の普通財産の管理者と少しもその立場を異にするものではない。かりに右土地が公共用財産であり、農地法第八〇条の認定、売払いには公共用財産の用途を廃止する作用が含まれているとしても、これは被告が各省各庁の長としてその管理権の範囲内において財産権の主体としての国の機関としての地位に立つて行なう内部的処理であつて、被告が公権力の担い手として他の第三者を相手方として行なう行政処分ではない。農地法第八〇条第一項は、行政組織内部において、国有財産の処分権限を同項所定の土地に関する限り特に被告に付与したものであり、同条第二項はかような権限の行使に当つて遵守すべき被告の職責を規定したものに過ぎない。売払いを私法行為と解すべきことは、農地の売払いについて定めた規定と売渡処分について定めた規定を対比することによつてもうかがわれる。すなわち、農地法第八〇条の売払手続を定めた施行規則第五〇条においては、売払申込書に一定事項のほか希望する対価、希望する所有権または権利の移転の期日の記載を認めているにかかわらず、農地の売渡しという行政処分に関する手続を定めた施行規則第二二条はこれを認めず、かえつて対価については農地法第三九条により行政庁において一方的にこれを決定するものとし、また売渡しの期日も同条において行政庁が一方的に決定するものとされており、売渡通知書の交付の効果も同法第四〇条により法定されている。また施行規則第五〇条では、被告が「その申込みを相当と認めるとき」にのみ売払通知書を交付することとしているのに反して、農地の売渡処分については、かような裁量の余地は行政庁に対して認められていないのである。以上のことは、農地法第三六条以下による農地の売渡しなるものが公権力の主体である国の行政庁としての都道府県知事が優越的立場に立つて売渡申込者に対して行なう行政処分であることを示すものにほかならならない(同法六一条以下の買収末墾地の売渡しに関する規定は、同法第三六条以下の農地の売渡に関する規定と同様のことを規定している。)のに反し、農地法第八〇条の売払いは買収土地の処分権限を有する国の行政機関としての被告が売払いの申込者と対等の立場においてする私法上の合意によつて行なわれるものであることを裏書しているのである。

(三) 原告の第一および第二次的申立てに対し

農林大臣は、国の行政機関であるから、一般に権利能力したがつて当事者能力がなく、法律に特に規定がある場合(行政事件訴訟特例法第三条、地方自治法第一四六条等)のほかは当事者たりえないから、本件第一および第二次的申立てについては当事者となる能力を有しないというほかなく、右申立ては不適法である。

B  本案について

(一) 請求の原因(三)は争う。本件土地は開発して農地とするため買収した土地ではなく、附帯地すなわち農地の開発上必要な土地として薪炭林、防風林及び採草地にあてるため買収したものであり、附帯地として不適当又は不必要であるということはない。その詳細は別紙(二)記載のとおりである。また、本件土地については、昭和三四年九月四日農林大臣が農地法第六二条による土地配分計画を作成し、同月一八日群馬県知事がその公示をしたのであり、しかも同日までに右地区に係る建設工事に着手していたのである。本件地区に係る建設工事中、吾妻町大字萩生字大沢を起点として本件土地を南西から東北に通ずる巾五・五メートル、長さ一四・三七〇メートルの棒名西麓開拓道路建設工事は昭和二七年中に着工し、昭和三四年中には全線完成している。

(二) 請求の原因(五)ないし(八)は争う。

三、被告の主張に対する原告の反論

(一)  農地法第八〇条の認定、売払いは行政処分ではないという主張について

認定も売払いも行政処分ではないという被告の主張は失当である。認定が行政処分である理由については東京地方裁判所昭和三三年(行)第八号事件昭和三六年八月二四日言渡し判決を、売払いが行政処分である理由については東京地方裁判所昭和三一年(行)第一〇号事件昭和三七年六月二〇日言渡し判決を各参照。

(二)  被告には当事者能力がないという主張について

農地法第八〇条の認定および売払いをなす権利義務は農林大臣にあり、農林大臣をして訴訟を遂行させるのが最も便宜妥当であるから、行政事件訴訟特例法第三条の準用ないし類推解釈によつて農林大臣に被告適格を認めるべきことは当然である。

(三)  仮に本件土地に被告主張のような道路が開設されたとしても、元来農地法施行令第一六条の一の二は昭和三五年政令第二七六号により追加された規定であるが、このような政令の追加は、官庁の面子上すでに買収した土地はたとえ不適当であつても返還を拒否せんとする底意のもとに作られたものであつて著しく非民主的であり、それ自体憲法第二九条、農地法第八〇条の精神に反するものであり、また、このような規定に基づき買収後数年を経た昭和二七年に着工昭和三三年完成し、しかも道路が本件土地のわずか一部を通過したという一事により、現に山林として経営せられ、あらゆる観点から農地に適せず山林として育成することを得策とする土地の返還を拒否するがごときことは、憲法第二九条農地法第八〇条の精神に反するばかりでなく、著しく信義則に反し権利の濫用たるを免れない。

第三、証拠関係<省略>

理由

第一、本件第一次的申立てについて

原告の本件第一次的申立ては、被告に対し、本件各土地につき農地法第八〇条第一項の認定をしたうえこれを原告に売り払うことを求めるものである。

そこで、農地法第八〇条による認定ないし売払いが行政処分かどうかはしばらくおき、かりに行政処分であるとして、右のような申立てが適法かどうかについて考えてみよう。

日本国憲法のもとにおいては、裁判所は、憲法に特別な定めがない限り、一切の法律上の争訟について裁判をする権限を賦与されており、何人も一切の法律上の争訟につき裁判所の裁判を受ける権利を保障されているから、行政権の行使をめぐる具体的な法律上の紛争についても裁判所の判断を求めることができなければならないことはいうまでもない。しかしながら、行政庁の処分権限ないし公義務の存否について具体的な紛争がある場合には行政庁の判断が示される前の段階においてもつねに裁判所の判断を求めて出訴しうるものとしなければ違憲になるというものではなく、行政作用の適否についての最終的な判断権が何らかの形で裁判所に留保され、結局において司法による国民の権利救済の途が開かれている限り、憲法違反の問題は生じない。したがつて、行政権行使のいかなる段階でいかなる訴訟形態による司法審査を認める法制とするかは立法政策の問題である。

そこで、わが現行法制上いかなる建前がとられているかをみると、行政事件訴訟法は、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟として抗告訴訟を認め、「処分の取消しの訴え」「裁決の取消しの訴え」「無効等確認の訴え」「不作為の違法確認の訴え」という四つの訴訟形式をあげているが、右のほかの訴訟形式を認めないのかどうかを明らかにしていない。けれども、行政事件訴訟法が取消訴訟を抗告訴訟の中心に据えていること等からみて、わが国の現行法の建前は行政庁の処分権限の存否ないし公義務の存否についての行政庁の判断(認定)に重大かつ明白なかしがない限り、いわゆる公定力を付与し、取消訴訟によつてのみその公定力を失なわせることができるものとしていることは明らかであり、このこととわが行政事件訴訟法は西ドイツ行政裁判所法第四二条のような義務づけ訴訟についての規定を設けず、法令に基づく申請に対する行政庁の不作為に対する救済手続として「不作為の違法確認の訴え」を設けていることをあわせ考えると、法の建前は、行政行為がなされるのをまたずに当初から訴訟手続で行政庁と国民との間の権利義務の存否を確定することを原則的に許さず、行政庁の処分権限の存否については、行政行為がなされた後に取消訴訟という形式で行政庁の判断(認定)を争わせ、また公義務の存在については、国民が行政庁に対しある行政行為をなすべきことを求めているのにかかわらず何らの処分もなされないままになつているという場合に不作為の違法確認の訴えにより何らかの処分すなわち申請に対する許否の処分を得、この処分に対して不服があればその取消しを求めさせるというのが、法の建前であると解される。もつとも、国民の権利、利益を行政庁の違法な侵害から守ることを司法権の任務としている憲法の趣旨からすれば行政事件訴訟法も、国民の権利、利益を行政権の違法な侵害から守るために必要不可欠である限り、右の四つの訴訟形式のほかの訴訟形式を否定していないと解するのが相当である。したがつて、行政庁が一定の行為をすべきことを法律上き束されていて国民により求められている行為をすべきかどうかが行政庁の一次的判断を重視する必要がない程度に明白で、かつ事前的な司法審査によらなければ国民の権利救済が得られず回復し難い損害が生ずるというような緊急の必要性があると認められる場合は、行政庁に対し行政処分をなすべきこと、すなわち作為、または、なすべかざらがること、すなわち不作為を求める訴訟(いわゆる給付訴訟)ないし行政庁のある行政処分をなすべき義務またはなすべからざる義務の確認を求める訴訟(いわゆる公義務確認訴訟)も許されないわけではないであろう。

そこで、本件の場合についてみるのに、農地法第八〇条第一項は「農林大臣は、………政令で定めるところにより、自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたときは………これを売り払い、又はその所管換え若しくは所属替えをすることができる。」と規定し、同条第二項は「農林大臣は、前記の規定により売り払い、又は所管換え若しくは所属替えをすることができる土地、立木、工作物又は権利が第九条、第一四条又は第四四条の規定により買収したものであるときは、政令で定める場合を除き、その土地、立木、工作物又は権利を、その買収前の所有者又はその一般承継人に売り払わなければならない。………」と規定しているので、第一項に定める認定が買収前の所有者またはその一般承継人への売払いの前提をなすものであるところ、農林大臣が認定をなしうる場合を定めた農地法施行令第一六条が原告主張のように例示的規定であり、農林大臣が同条各号に該当する場合でなくとも農地法第八〇条第一項の認定をなし得る場合があるとすれば、農林大臣の裁量の余地は相当大きいというべきであるのみならず、これを制限的規定であると解しても、同条の四号等の場合は農林大臣の政策的ないし専門技術的見地からする裁量の余地が相当程度認められているわけであるし、また、かりに、本件土地が同条の一の二に該当するとしても(そのような事実を確認できる証拠はない。)、この場合にも同条及び農地法第八〇条の規定の趣旨からみて、さらに、農林大臣において、本件土地が農地法第八〇条第一項に定める「自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認める」場合にはじめて売払い等をすべきものと解すべきであるから、この点につき農林大臣の裁量の余地があるものと考えられ、認定、売払いをすべき場合かどうかはつねに行政庁の一次的判断を重視する必要がない程度に明白であるとはいい難い。のみならず、認定、売払申請に対し相当な期間を経過してもなお何らの応答がない場合にはこれに対し不作為法確認の判決を得て応答を求め(もし認定、売払いが行政行為であり買収前の所有者またはその一般承継人には認定、売払請求権というものが農地第八〇条により認められているとすれば、買収前の所有者またはその一般承継人には右請求権実現のために認定、売払申請権が認められることは当然であるから、認定、売払申請は法令に基づく申請といえるはずである。もつとも、後に述べるとおり、認定に関する限り行政処分とはいえないから、認定の不作為についてはその点で不作為違法確認訴訟が許されないことになる。)、申請却下の応答がなされた場合にその取消訴訟を提起しなければならないとしたのでは権利又は利益の救済が得られず回復し難い損害が生ずるというような緊急の必要があるものとも認められない。

そうであるとすれば、本件は例外的に事前的司法審査を求めうる場合にはあたらないというほかなく、原告の本件第一次的申立ては不適法である。

第二、本件第二次的申立てについて

原告の本件第二次的申立ては、被告は、本件土地につき農地法第八〇条第一項の認定をしたうえこれを原告に対し売り払う義務あることの確認を求めるものである。しかしながら、行政庁がある行政行為をなしまたはなさないとの判断を示す前に裁判所が行政庁には右行政行為をなすべき義務がある旨を確認することは、行政庁に対しその行為を命ずるのと同一の効果をもつものであるから、右のような申立ては本件第一次的申立てについて述べたと同様な理由により原則として許されないと解すべきであり、本件の場合例外的に事前的司法審査を求め得る場合にあたらないことも前に述べたとおりである。

したがつて、本件第二次的申立ても不適法である。

第三、本件第三次的申立てについて

農地法第七八条第一項により農林大臣が管理する同法第九条第一四条、第四四条の規定により買収された土地等(自作農創設特別措置法第三〇条第一項等による買収土地等で同法第四六条第一項の規定により農林大臣が管理していたものも農地法施行法第六条の規定により農地法第八〇条等の適用については国が同法第四四条第一項により買収したものとみなされる。)、の買収前の所有者またはその一般承継人にあたると主張する者の農地法第八〇条の認定を求める申請に対する農林大臣の不作為は不作為違法確認訴訟の対象となるかどうかについて検討する。

農地法第八〇条第一項の認定は、同条第二項による買収前の所有者またはその一般承継人への売払いの前提をなすものであることは前に述べたとおりであるが、法文の字句からみても、認定は、売払い、所管換え、所属替えの要件の判断に過ぎないとみられるばかりでなく、認定が処分であればこれを外部に表示する行為が必要であるのに何らこれについての規定が存しない(農地法施行令第一七条により行なうべきこととされている買収前の所有者等への通知は、旧所有者等へ売り払うべき場合の売払手続に関する規定であつて通知という形式による「認定処分」というようなものを意味するのではない。このことは、認定がなされても施行令第一八条第二号および第三号の場合には通知をする必要がないことからもうかがわれる。)から、認定を独立した行政処分と解することは困難で、後に述べるとおり売払いを行政処分と解すべきである。そうであるとすれば、農地法第八〇条が買収前の所有者またはその一般承継人に「認定」という行政処分を求める請求権を与えているというような解釈は正しくないことになる。それ故、認定申請を法令に基づく申請と解することはできない。したがつて、農林大臣は認定申請に対しては許否いずれかの決定をすべき義務を負わないといわなければならない。

そうであるとすれば、認定申請に対する農林大臣の不作為は、不作為違法確認訴訟の対象とはなり得ないと解するほかはない。

よつて、本件第三次的申立ても不適法である。

第四、本件第四次的請求について

一、そこで、農地法第七八条第一項により農林大臣が管理する土地等の買収前の所有者またはその一般承継人の売払申請に対する農林大臣の不作為は不作為違法確認訴訟の対象となるかどうかについて検討する。

(一)  憲法第二九条第三項は、私有財産の収用につき「公共のために用いること」と「正当な補償」をすることの二つの要件を定めているにとどまるから、公共目的のための収用は収用物件につき収用目的が消滅した場合に当然これを被収用者に返還すべきことを条件としてのみ可能であるというわけではないが、被収用物件が収用の目的である特定の公共の用に供せられないでいるうち事情の変更により公共の目的に供する必要がなくなるとか公共の用に供しえなくなるというような場合には、なお収用物件を国に保有させる合理的な理由はないのであるから、原則として旧権利者にこれを回復する権利を保障するような立法上の措置をとることが公平の原告にも合致し、かつ私有財産の尊重を基本としながらひとえに公共の要求のためにのみその強制収用を認めた憲法の右規定の精神にも合致するゆえんであると考えられる。既に土地に関する権利の収用一般について規定した土地収用法が、その第一〇六条第一項において、収用の時期から一定期間内に収用した土地が不用となつたとき又はこれを事業の用に供しなかつたときに当該土地の旧所有者(又はその包括承継人)にその買受権なる私法上の形成権を認めているのも、右の趣旨に出たものと考えることができる、このようにみてゆくと一般に、ある法律が私有財産の収用後に収用物件を収用の目的である公共の用に供する必要がなくなつたときはこれを被収用者に返還する旨な定めている場合には、被収用者に返還を求める権利を設定する旨を明示していなくとも、法律の規定上反対の趣旨のあらわれていない限りは被収用者に返還を求める権利を与えたものと解するものが合理的であるというべきところ、農地法第八〇条は買収した農地等を自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進等の目的に供することが適当でない場合が生じたときに、これを原則として旧所有者に返還する措置を講ずることが適当であるとして設けられるに至つたもので、あたかも、土地収用法における土地の被収用者の買受権の制度に対応し、その立法の趣旨を同じくするものと考えられるから、特に反対に解すべき理由のない限り、同条は、買収に係る農地等の所有権が同条所定の要件を具備するに至つたとは、原則としてこれを旧所有者に売り払うことを農林大臣に義務づけたもの、換言すれば旧所有者に対して売払いを要求しうる権利を与えたものと解するのが相当である。しかるに、農地法上右規定の趣旨を反対に解すべき特段の理由は見あたらないのみならず、かえつて同条の規定をつぶさに検討すると、同条第一項は、農林大臣が農地等を自作農の創設等の目的に供しないことを相当と認めたときは、これを売り払い又は所管換えもしくは所属替えをすることができると定め、あたかも農林大臣に単なる権限を与えるにとどまり、これに法的拘束を課していないようにみえるけれども、同条第二項は、農林大臣が前記のような認定をした農地等が同項に定める買収農地等である場合には、これをその農地等の旧所有者又はその一般承継人に売り払わなければならないと定めているのであるから、両者をあわせ読めば、農林大臣は、その管理する農地等が第二項に定める買収農地等である限り、これを自作農の創設等の目的に供しないことを相当と認めれば必ず旧所有者又は一般承継人に売り払わなければならないとの拘束を課せられていることが明らかであるといいうるのである。もつとも、前記第八〇条第一項は「農林大臣は、………政令で定めるところにより、自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたときは………」と規定し、また農地法施行令第一六条は、同条に掲げる四つの号のいずれかに該当する場合にのみ、農林大臣において右の認定をすることができると規定して農林大臣の認定権に制限を加えているので、規定の体裁からみれば、農林大臣は、特定の土地等を自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めるかどうかについて自由な裁量権を有し、単に前記施行令第一六条に掲げる場合でなければ、かかる認定をしてはならない旨の消極的拘束を受けるにとどまるようにみえないではない。しかしながら、前記農地法第八〇条第一項にいう自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことが相当であるかどうかの判断については、事柄の性質上、法律上確定された内容の要件事実が客観的に存在するかどうかの判断とは異なり、そこに政策的な価値評価が加わることを否定することができず、法律もまた農林大臣のこのような政策的判断を期待しているものと解することができるけれども、それだからといつて、農林大臣は右のような認定をするかどうかにつき完全な自由選択権をもち、明らかに自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことが相当であると認められる農地等についても、かような認定をしないことができ、旧所有者としては、農林大臣が当然このような認定をすべき場合であることが客観的に明白であるときでも、その認定のない限り、何らの手の施しようがないものとする趣旨であると解さなければならないような根拠は、農地法や同法施行令の規定を通覧してもどこにも見当らないのであつて、このような解釈が、結局において、旧所有者の買収農地等の売払いを受ける利益を行政庁の自由な選択によつて左右される単なる恣意的利益にすぎないものとすることに帰し、上記のような本規定の制定趣旨に反することとなることを思えば、右はとうてい合理的な解釈であるということはできない。それ故、農林大臣は、ある範囲においては、買収農地等を自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めなければならない拘束をうけ、右認定に基づいて、これを旧所有者に売り払うべき義務を負担しているものといわなければならない。

そうであるとすれば、前記農地法第八〇条第二項の規定は同法第七八条第一項の規定により農林大臣が管理している土地等で買収目的に供しないことが相当であるという状態が生じたときは買収前の所有者またはその一般承継人に買収土地等の売払請求権を認めたものと解すべきである。

(二)  そこで、右売払請求権は行政処分を要求する権利かそれとも私法行為を要求する権利かについて考えてみよう。

農地法第七八条第一項により農林大臣が管理する土地等は自作農の創設または土地の農業上の利用の増進という公共の目的のために自作農として農業に精進する見込みがある者等に売り渡すことが予定されていたもので、元来国有財産法にいわゆる公共用財産たる性質をもち(当初から自作農創設または土地の農業上の利用という目的のために買収されたものについては買収行為の中に、当初はかような目的とは関係なく売買、物納等により取得され国有となつた後に所管替え、所属替えによつて農林大臣の管理に属するにいたつたものについては所管換え、所属替え行為の中に国において公共の用に供する旨の決定が含まれていると解し得る。)、それ故農地行政の責任者としての農林大臣により管理されるのである(普通財産の管理者は大蔵大臣である。)が、農林大臣は右のような農地行政の責任者たる立場においてその管理する土地等につきこれを右の公共の目的に供しないことを相当とするかどうかを判断し、公共の目的に供しないことを相当とするという判断(認定)に達したときに売払いをするのであるから、農林大臣の売払行為は、買収土地等の公共用財産としての性質を行政上の個別的、具体的判断に基づいて剥奪(用途廃止)してこれを普通財産とし、その所有権を買収前の所有者またはその一般承継人に返還する行為であるものというべく、したがつて、このような行為は、国の機関が私法上の財産権の主体たる国の機関としてこれを処分する場合の行為とは著しく異なり、あくまでも行政権の行使機関としての立場においてなされる行政処分たる性質をもつものと解すべきである。このように、国有財産法上は普通財産の処分機関は大蔵大臣であるのに、農地法第八〇条の売払いについてはこれを農林大臣の権限とし、農地行政の見地からの政策的ないし専門技術的判断を経させたうえ売り払わせることとしていること、それに、法が私法上の請求権を付与する場合には、法律上、右請求権取得の原因となる要件を明確に規定するのが常であり、行政庁が相当広汎な裁量的判断に基づいてなすことを認められている行為についてこのような行為を要求する私法上の請求権を個人に認めるというようなことは通常これを想定することができないこと等をあわせ考えると、農林大臣の売払行為は行政処分としての性質をもつものと解するのが相当である。

被告は、売渡しと売払いに関する農地法および農地法施行規則の規定の差異を指摘して売渡しが行政処分なのに対し売払いが私法行為である旨主張しているが、農地法施行規則の上で売渡しと売払いに関する規定の仕方に差異があるからといつて農地法による売渡しと売払いの法的性質に差異があるという主張の根拠とするのは本末を顛倒するものというべきであるし、また売渡しと売払いは行政目的を異にする(というよりむしろ売払いは行政目的消滅の判断に基づいて行なわれる処分である。)のであるから、両者に関する農地法の規定の仕方には被告主張の点で差異があるとしても売渡しが行政処分であつて売払いが私法行為であるということにはならない。

したがつて、買収前の所有者またはその一般承継人の買収土地等の売払請求権は、行政処分を要求する権利であるといわなければならない。

(三)  そして、前記のように、農地法第八〇条第二項の規定は同法第七八条第一項の規定により農林大臣が管理している買収土地等で買収目的に供しないことが相当である状態が生じたときは買収前の所有者またはその一般承継人に行政処分を求める権利としての売払請求権を認めたものと解される以上、買収土地等につき農林大臣に対する売払請求権を有する可能性を有する者たる買収前の所有者またはその一般承継人には右権利の実現を図るため売払請求権の存否について農林大臣の判断を求める権利としての売払申請権が認められるべきは明文の規定がなくとも当然なことであり、それ故農地法第八〇条に基づく売払いの申請は法令に基づく申請であると解することができる。

(四)  したがつて、農地法第八〇条に基づく売払いの申請に対しては農林大臣は相当の期間に許否いずれかの決定をすべき義務を負うているものというべく、売払申請に対し許否いずれかの応答もしないという不作為は不作為違法確認訴訟の対象となることは明らかである。

二、ところで、請求の原因(一)、(二)および(四)のうち原告が内山元太郎を単独相続したとの点を除くその余の事実は当事者間に争いがない。そうであるとすれば、本件土地についての原告の売払申請に対し被告が許否いずれかの応答をしないという不作為違法確認訴訟の対象となる不作為が存在することおよび原告が本件第四次的申立てにつき原告適格を有することは明らかである。

三、そこで、原告の売払申請に対し被告が許否いずれかの応答をしないという不作為が違法かどうかについて考えるのに、右売却申請時より本件口頭弁論終結時まで数年の日時が経過しているのにかかわらずなお許否いずれかの決定をするのに要する相当な期間内であるという主張立証がなく、かえつて右申請に対し被告が応答をしないのは農地法第七八条第一項により被告の管理する土地等の売払いを求める申請に対しては応答義務がないという見解を有しているためであることが弁論の全趣旨により明らかであるから、被告が本件土地についての原告の売払申請に対し許否いずれかの決定をしないことは違法というほかはない。

第五、むすび

以上の次第で、原告の本件訴え中、第一ないし第三次的申立てはいずれも不適法であるからこれを却下し、第四次的請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 位野木益雄 高林克巳 小笠原昭夫)

目録<省略>

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